福祉用具 > リハビリテーション > 小児麻痺(脳性まひ)のリハビリ


      脳性麻痺の呼吸障害アプローチ






 
1.脳性麻痺(小児まひ)の概論         

 2.脳性麻痺(小児まひ)診断・評価

 3.脳性麻痺(小児まひ)治療方法・手技

 4.小児麻痺に対するリハビリテーション

 5.各発達期の療育

 6.脳性麻痺の病型別アプローチ 



 

7.呼吸障害



<呼吸理学療法の必要性>

重度の脳性麻痺児の死亡原因は呼吸器感染症によるものが最も一般的といわれている。
重度の呼吸障害は呼吸不全をきたし、肺性心へと進行する。
また、慢性的な呼吸障害があり、痰や分泌物の喀出が不良な場合、気管支炎や肺炎となりやすく悪化しやすい。
そして、単に呼吸の問題にとどまらず、睡眠障害、生活リズムの乱れ、てんかん発作の頻発など二次的な他の問題を引き起こし、呼吸障害をいっそう悪くさせ、呼吸機能の低下という悪循環に陥ることもある。


<呼吸障害の評価>

@視診・触診
 胸郭の動きは、前・背面の胸郭を左上部、右上部、左下部、右下部に区画して、最も動きのある部分を触診し、手掌で確認する。
一般的に動きに制限のある部位の換気は低下している。

 また、呼吸パターンの評価についても上部腹式呼吸、下部腹式呼吸、横隔膜呼吸について視診し、手掌による触診を加え評価する。
正常呼吸数は年齢とともに変化し、睡眠時、安静時で異なる。
新生児で30回/min、6歳で20回/minが目安となる。


A聴診
 聴診器にて、初めに肺に空気が入っているかどうかをみる。
脳性麻痺児の場合、上気道通過障害による閉塞が問題となることが多いため、姿勢を変化させ頭部アライメントを変えた場合には注意が必要で、聴診して呼吸音が変化していないかどうかを確認する。


B動脈血酸素飽和度(SaO2)
 近年、経皮的酸素飽和度モニター(パルスオキシメーター)による酸素飽和度が動脈血酸素分圧とよく相関することが認められ、臨床場面でも盛んに用いられるようになっている。
最近は24時間連続で記録できるパルスオキシメーターも普及しており、一日の呼吸状態や睡眠時の呼吸障害も評価することができる。


<呼吸障害への治療>

早期から治療を開始し呼吸障害への関わりを最小限にすることで、他の全身的な発達への治療がスムーズとなり、母親との関わりも増えてくる。
目標は胸郭の呼吸運動の改善に基づく、換気量の増大と閉塞原因の除去(排痰)となる。


@呼吸介助手技
 呼吸のリズムにあわせながら、呼気時に胸郭を徒手的に圧迫し、呼気量を増大させ、次の吸気に相対的に胸郭の拡張量を増大させて換気を改善する方法である。
呼吸音を聴診し、モニターを確認しながら行う。
あらゆる肢位、肺野に適用することができ、胸郭の可動性や横隔膜の収縮を促進し、換気の改善をはかることができる。
目的として、

1)気道内分泌物喀出の促進、
2)胸郭可動性と柔軟性の維持・改善、
3)呼吸仕事量の軽減

などがあり、換気を改善することによりリラクセーションも得ることができる。
また、呼吸介助を行いながら、呼気に揺すり(shaking)、振動(vibration)などを加えることで、より効果的に得ることができる。


Aポジショニング
 呼吸障害がある場合には、様々な肢位における呼吸状態を呼吸パターンの観察、聴診、触診による胸郭の動き、オキシメーターによる酸素飽和度などから評価する。
呼吸状態が改善する肢位、逆に憎悪する肢位などは個々で異なるため、様々な肢位で確認する。

ポジショニングのポイントは、

1)頸部伸張・体幹の屈曲、
2)肩甲帯の前方位・上肢正中位、
3)骨盤の後傾、
4)下肢屈曲・内外旋中間位

を保つことである。
このような姿勢管理によって、

1)母体内の自然な軽度屈曲姿勢の保持、
2)対称性姿勢と正中位指向、
3)四肢の滑らかな自発運動の促進、
4)変形の予防、
5)ストレスの軽減、
6)安定した睡眠と覚醒状態の調整、

などの効果が得られる。


■背臥位
 この姿勢だけで機能的残器量は20%低下し、さらに横隔膜に緊張低下と腹圧増加のためにいっそう機能的残器量は低下する。
そうすると、下肺野の気道閉鎖、腹部臓器、肺、胸郭の重量などで下肺野のコンプライアンスが低下し、換気不均等が生じる。
また、舌根沈下も背臥位で起こしやすいため、比較的好ましくない体位とされている。

 背臥位に制限されている場合には後肺低区の換気低下を伴うことが多いため、下肺野の換気を促進するために下部胸椎や廃部胸郭の可動性を引き出し、呼吸介助し、下部胸式・腹式呼吸を促すことが重要である。
アテトーゼ型の脳性麻痺児では、全身の伸展パターンを強めて正常な呼吸パターンを阻害している場合もある。
ゆったりとしたマットレスに背臥位で寝かせると体重支持部が分散し、姿勢が安定し、リラックスした状態になることもある。


■側臥位
側臥位は呼吸障害の左右差に対応できる肢位であり、肺病巣や側弯の凸側を上側にした場合、治療的意義のある体位であるといわれている。
しかし、強度の胸郭変形がある場合や緊張性の姿勢反射が強い場合は不安定な姿勢となりやすく、筋緊張の抑制や側臥位装具、マットなどの工夫が必要である。
安定した側臥位を確保した上での呼吸介助法は、分泌物の喀出、胸郭可動性の向上などに有効で、呼吸状態も改善できる。


■腹臥位
 腹臥位は変形拘縮などにより困難な場合が多いが、腹臥位をとることが可能であれば最も呼吸効率がよい姿勢といわれている。
腹臥位の有効性は、

1)柔らかい前胸壁が固定され陥没呼吸を抑制し腹式呼吸を促進する、
2)腹部に適度の圧がかかり腹部臓器が安定する、
3)四肢が安定し姿勢が崩れにくく頸部が過伸展になりにくい、

などが挙げられる。
また腹臥位は、全身性緊張性姿勢反射を抑制し、胸郭の運動性が得られ、下葉の換気が改善するとの報告もあり、分泌物もたまりにくい体位とされている。
しかし、腹臥位は他動的な力を必要とする体位で、楽に保てるようにするには枕やパットなどを入れる工夫が必要である。


B柔軟性・可動性の維持
 重度の脳性麻痺児には姿勢筋緊張にアンバランスがあり、ほとんどの症例で非対称が生じる。
姿勢筋緊張の非対称は脊柱と胸郭変性を生じさせ、脊柱短縮側の肺は短縮肥厚し、脊柱伸張側の肺は扁平化する。
二次障害として重症化すると胸郭は可動性がなくなり換気量が極端に減少する。
加えて、非対称は横隔膜の変形と機能低下などをもたらすこともある。

予防として、姿勢筋緊張のアンバランスを修正し、非対称の進行予防と軽減を行う必要がある。
胸郭の凹側では吸気時に徐々に伸展し、胸郭が拡張位になっている凸側では呼気時に胸郭の絞り込みで換気量の増大を図る。



<重度脳性麻痺児の呼吸の特徴>

重度脳性麻痺児は粗大運動発達が遅滞すると同時に、正常な呼吸運動発達も遅滞する。
さらに、肺胞虚脱、細気管支閉塞、食道気管漏孔などによる呼吸障害が伴う。
加齢とともに異常筋緊張と呼吸筋活動異常が生じ、さらに中枢性低換気、変形による拘束性換気障害が加わり、慢性的な呼吸障害に陥る。
つまり、重度脳性麻痺の呼吸障害は、胸郭の運動障害に伴う拘束性換気障害に加え、慢性的な上気道の狭窄による閉塞性換気障害、睡眠時無呼吸の中枢性換気障害とあいまって生じている。


■上気道閉鎖(狭窄)性呼吸障害への直接的対応

 気道狭窄への対処法(図1‐43)のうち、直接的方法は以下のとおりである。


@ アデノイド・扁桃摘出手術
 これらの肥大が主因の場合は摘出手術により劇的な改善があり得るが、他の要因による狭窄が合併している場合は手術の効果はあまり期待できない。
術前の評価を十分に行う必要がある。




図1‐43 上気道狭窄とその対応方法


A手の介助や器具による下顎、頸部の保持・姿勢管理

 下顎を前に出して上気道を広げるように、手でコントロールすることが有効であり得る(図1‐44)。
脳性麻痺では通常の気道確保の方法である頸部の強い伸展は逆効果のことも多い。むしろ後頸部の緊張と過伸展を抑えることが必要な場合が多く、下顎の前への突き出しや軽い屈曲を加えることが有効である。




図1‐44 介助者の手による下顎介助



 テクラフレクスという、自由自在に形を変えられ固定できるスポンジカバーのアルミ製の棒を頚の周りに環状にセットしたものが、舌根沈下防止のための下顎保持や頸部の後屈の抑制に極めて有効である。
猫の手型の顎のせ枕、頚椎症用のネックカラー、サーモスプリントで作った顎ソケットを帽子からのバンドで吊り上げる、タオルやパッドによる保持なども有効であり得る(図1‐45)。










 8.摂食嚥下機能障害 









 
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