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      筋ジストロフィーのリハビリについて




 筋ジストロフィーのリハビリテーション



(4)ステージ別の理学療法


Ⅲ.電動車いす期・臥床期(stage6-8)

a.電動車いす期

 手動車いすから電動車いすへの移行時期は、手動車いすによる10m走行に20秒以上要するようになったころと考えられ、上肢機能障害段階(9段階法)では段階5と6の間に、機能障害度(厚生省新分類)はstage6と7の間にある。手指の関節可動域が維持されており、座位保持が可能であれば現存する手指機能で電動車いすが操作でき、日常生活での移動が可能となる。筋力低下、脊柱変形、関節拘縮を考慮し、コントロールボックスの操作性、座位保持について考慮が必要で、座位保持具の作製を必要とする場合も多い。ADLで見ると食事や整容は自立度が高いが、食器の工夫や自助具の利用などを考慮する。呼吸不全の進行に伴い、人工呼吸器が導入される。




図25 簡易型電動車椅子(手動リクライニング式)






図26 電動ティルト型車椅子     




図27 手動ティルト・リクライニング式電動車椅子


b.臥床期

 臥床期になると可能な動作はほとんどなくなり、上肢・下肢の拘縮や脊柱変形が少なく安定した安楽な体位を保持できることがQOL維持に重要となる。拘縮・変形が重度な患者ほど骨突起部が圧迫され、痛みや痺れ、不快感を訴えることが多くなり、頻回の重心移動・体位変換が必要となる。また、手指機能は最終段階まで保たれるが、手指機能を生かすためには手指の可動域維持だけでなく、それに関与する肩・肘・手関節の可動域の維持も必要である。
 近年の機器の発達により、環境制御やコミュニケーションの手段が増えている。患者に残された身体機能が少ない場合、その意思を機械に伝えるインターフェースが重要となる。


※ この時期にやっておくこと

○ 呼吸理学療法
1.肺活量
 肺活量は呼吸リハの効果判定には適さないが、原疾患の進行状態を的確に把握するために最も簡便で有益な情報を与えてくれる。横隔膜機能低下が主体の神経筋疾患では特に座位に比べて臥位になることで低下するため、できるだけ両者での評価が必要である。

2.最大強制吸気量(maximum insufflation capacity:MIC)
 MICは低下した吸気筋力を補うために、他動的に肺に送られた空気を、吐き出さずに息止め(air stacking)することができる吸気量である。横隔膜などの吸気筋力には依存せず、肺の伸展性や胸郭の可動性に大きく影響される。また、声帯を閉じて息を溜めるための喉咽頭機能を含めた総合的な指標になり、後に続く咳介助のための十分な吸気量と胸腔内圧上昇が可能であるのかの判断に用いる。
 MICは深吸気を日常的に行う呼吸リハにより維持、増大することができる可能性が報告されている。肺活量が低下しても、十分なMICを維持し有効な咳介助を可能にすることや、成長過程の小児では肺や胸郭の正常な形成、発達を促すことが呼吸リハの1つの目標になる。吸気介助の方法は4種類あり(表22)、日常的に深吸気が行いやすく習慣化するように考慮する。救急蘇生用バックを用いる場合は、過度の加圧や送気量の過多による肺への損傷に十分注意して行う(図28,表23)。NIVが導入されている場合は、装着時に人工呼吸器の1回換気量を吐き出さずに、2回、3回と肺に溜めることで深吸気を自分で得ることができる。成人で肺活量が2000ml以下(%VC<50%)に低下したら定期的に評価し、深吸気を行ってMICの維持に努める。


表22 深吸気を得るための吸気介助






図28 MICを得るための救急蘇生バックを用いた吸気介助



表23 救急蘇生バックによる吸気介助方法と注意点




3.舌咽頭呼吸
 これは、喉咽頭機能がある程度維持されていれば可能で、肺活量がゼロになった患者でもMICと同等量の肺の換気が可能である。この方法は、横隔膜を使わず、頸部上部が吸気の時に膨らむことで口腔内に約50mlの空気を吸い、舌と咽頭、喉頭を使って肺に空気を送り込む動作を繰り返す。肺機能が低下してくると自然に覚えてしまう患者も多い。

4.咳の最大呼気流速(peak cough flow:PCF)
 咳の評価にはピークフローメーターにマウスピースかフェイスマスクを取り付けて、咳嗽時の最大呼気流速を測定する(図29)。PCFは健常成人で360~960ℓ/minの流速で約2.3ℓの呼気が排出される。12歳以上での指標として、PCFが270ℓ/min以下になると風邪を引いた時などの分泌物の量や粘度が増大した時には気道からの喀出が困難になり、また160ℓ/min以下になると痰の性状に関わらず、日常的に気道のクリアランス維持が困難になる。




図29 ピークフローメーターによる咳の最大呼気流速測定



5.気道を確保するための有効な咳介助
自力咳でのPCFが低下した場合(PCF<270ℓ/min)には、徒手や器械による咳介助を導入し、それぞれの方法で有効なPCFが得られているか確認をし、生活状況・環境に最も適した有効な気道確保の方法を指導する(表24)。肺実質障害のない筋ジストロフィーでは、車椅子乗車や座位などの日常的な活動性が保たれているケースでは一般的に行われる体位排痰法やsqueezing、呼気介助は肺炎、無気肺などの急性増悪時以外は特に必要はなく、中枢側気道からの排痰を目的とした咳介助が主体となる。



表24 気道を空気の通り道として保つための排痰方法





6.徒手による咳介助
 呼気介助は胸郭下部に左右対称となるように介助者の手を置き、声掛けをしながら咳にタイミングを合わせ、胸郭の生理学的な方向に圧迫介助する。胸郭変形が強度であったり、可動性が低下していたりする場合は腹部を手の掌で圧迫する。座位では後方からハイムリック様の介助も有効である。体幹を45~60°起こした姿勢が咳をしやすいが、困難であれば背臥位で行う。吸気介助はMICを得る方法で行い、呼気介助と組み合わせることで最大の徒手的介助となり、自力咳の2~5倍のPCFを得ることもできる。NIV装着中でも人工呼吸器の1回換気量を2~3回溜めて深吸気を得てから、呼気のタイミングに合わせて胸郭を圧迫介助することでマスクを装着しながら行うこともでき、急性増悪時には有効な方法となる。


7.器械による咳介助(mechanically assisted coughing:MAC,mechanical in-exsufflation:MI-E)
 徒手的介助だけでは十分に痰が出せない時にはMACを行う。器械はカフマシーンかカフアシストを使用する(図30)。原理は気道に陽圧を加えた後、急速に陰圧にシフトすることにより気道に呼気流量を生じ、気道内分泌物を除去するのを助ける。MACの陰圧に合わせて徒手による呼気介助を組み合わせることで、最も強力な非侵襲的な咳介助になる。
 小児では胸郭の呼気介助を組み合わせたほうが同調性は良い。特に、小児では専門施設での教育されたスタッフによる導入が必要であるが、小児期からでも有効に使用することができる。気管内挿管や気管切開でも、通常の吸引よりも快適に効率よく排痰できる。




図30 フェイスマスクを用いた器械による咳介助


8.非侵襲的人工呼吸療法(noninvasive ventilation:NIV,noninvasive positive pressure ventilation:NIPPV)
 近年、筋ジストロフィーでもNIVを活用し、窒息と気管切開を回避して本人も介助者もより快適な生活を維持することが可能になってきた(表25、図31)。
          


表25 NIVのゴール







図31 睡眠時から終日までのNIV活用
A:睡眠時の鼻マスクによるNIV
B:電動車いすに携帯型人工呼吸器を搭載した鼻プラグによるNIV

a)NIVの適応
 急性や慢性の呼吸不全に対して、適応によりNIVを行う。筋ジストロフィーにおいてNIVの効果が期待できる病態は、急性呼吸不全(上気道炎や肺炎)、気管内挿管の抜管困難や人工呼吸器の離脱困難(手術後を含む)、睡眠呼吸障害、胸腹部の呼吸パターンの異常(呼吸仕事量増大)、微小無気肺(胸部の発達障害や変形拘縮)、慢性肺胞低換気、心筋症による心不全(慢性と急性増悪)である。
 米国呼吸器学会より、NIVの適応が示されている。本邦でも、2004年に「慢性呼吸不全に対する非侵襲的換気療法(NPPV)ガイドライン」が報告され、ホームページでも公開されている(表26)。話せて食べられる喉咽頭機能が維持されていれば、肺活量がゼロになっても、NIVを24時間まで続けられ、食事もできる(図32)。呼吸機能をモニターし、必要に応じて気道確保のための咳介助を行う。
 このように神経筋疾患のNIVの適応は、予測されるNIV効果を、本人・家族がリスクを知った上で希望する場合にすべきと考えられる(表27)。そのうえで、適応は気道確保できること(話せて食べられる喉咽頭機能と肺と胸郭のコンプライアンス維持によりPCF>160ℓ/min)が条件となる。限界は、気道確保できない場合(徒手や器械による咳介助によってもPCF<160ℓ/min)である。

表26 神経筋疾患のNPPV適応ガイドライン







図32 鼻プラグによるNIVを使っての食事


表27 非侵襲的換気療法のメリットとデメリット





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